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プログラムノート


ご挨拶

顧問より

皆様、本日はようこそお越しくださいました。

ガーデンプレイスクワイヤをサッポロビールが支援し始めて早や11年。合唱音楽に詳しくなかった私でも、この楽団の演奏をたびたび聴いているうちに、その面白さを感じるようになりました。しかし、今までヨーロッパの古典や現代音楽を中心に演奏をしてきたこの楽団が、第30回という節目の定期演奏会で、「アメリカ」をテーマとした作品を集めて演奏するという知らせを受け、こんなにも良く見知った国であるのに合唱については何も知らなかったことに、今更ながら気付かされました。

戦後の厳しい時代から、高度成長期を生きてきた私たちの世代にとり、実際アメリカという国はとても複雑な存在です。戦勝国としてのアメリカ、民主主義の手本としてのアメリカ、冷戦の旗手として、また国際市場競争における巨人として君臨してきたアメリカ。良きにつけ、悪しきにつけ、パックス・アメリカーナの傘のもとで発展を遂げてきた日本に住む私たちは、すっかりアメリカ文化で彩られた日常生活に慣れ親しんでいます。ドラマや映画を通じて伝えられる豊かな中流階級の生活へのロマンチックな憧れ、ロックやジャズに浸った青春時代、様々な世代が様々なアメリカ文化の洗礼を受け、知らず識らず多くの思い出を共有してはいないでしょうか。

その強大さゆえに多様な分野の芸術家を引き寄せているという意味で、アメリカは芸術文化の坩堝でもあります。そこで生れ出る作品は、複数のヨーロッパ文化だけでなく、アフリカ系、ヒスパニック系、ユダヤ系やアジア系などあらゆる民族文化が刺激し合いながら、醸成された豊かで複雑なアロマを発しています。20世紀を通じて、またこの21世紀に入ってからも、音楽、絵画、演劇、映画などありとあらゆる芸術作品を産み、育て、そして流通させてきた功績は、この国が人類の歴史に果たした偉業のひとつと言えるでしょう。

さてさてそれでは合唱音楽は、どんな香りを放つのでしょう。その音楽は、旧知の友が新しい顔を見せた時の驚きのようなものを、与えてくれるのでしょうか。演奏が終わった瞬間、皆さんの心にどんな思いが去来するのか、どうかそんな楽しみも胸に、ごゆっくりとご鑑賞ください。

サッポロホールディングス株式会社名誉顧問
ガーデンプレイスクワイヤ顧問
岩間 辰志


団長より

本日はお忙しいところ、私どもガーデンプレイスクワイヤの演奏会にお越しくださり、どうもありがとうございます。

1996年7月に産声をあげましたガーデンプレイスクワイヤも創立10年を越え、また新たな段階に足を踏み入れようとしています。合唱は趣味でやるものだからこそ、手をぬかずに一生懸命やることが大人のメルヘンだ、と書いたことがありました。今もその思いは変わりません。それに付け加えて、やはり、やるからには、自分も楽しみ、聴いてくださる方にも喜んでいただける、ということを常に忘れてはいけない、と自らを戒めております。私どもの演奏に触れた方たちが、何かを感じたり、思い出したり、ふと微笑んだり、思わず、身体が動き出したり、そんな瞬間を持っていただければ、こんな嬉しいことはありません。どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ。

ガーデンプレイスクワイヤ団長  中川 美季子


プログラムノート

Ubi Caritas et Amor      / Morten Lauridsen (1943-) 

 James Mulholland、Eric WhitacreそしてMorten Lauridsen。今、最も演奏されているアメリカの現代の合唱作曲家といえば、この三人だという。私が後者二人の曲を初めて聞いたのは、一昨年の新潟でのコンクール全国大会だった。今まで聞いたことのない新しい響きと面白さにすっかり虜になってしまった私はその帰り道、GPCのメーリングリストに興奮混じりに次のような投稿をしている−10年前に歌われ出されたラター、その後知られたブストのように、10年後はこの2人も合唱界の「常識」になる、そんな気がします− 尤もある友人曰く、Whitacreは98年に歌ったよ、何を今更、とのことだったが...。
 さて、Lauridsen。日本語表記ではローリゼンともラウリドセンとも書かれるこのデンマーク系アメリカ人は、1943年に生まれた。作品の多くは合唱曲で、オーケストラ付きの宗教曲から無伴奏の世俗曲まで、スタイルも言葉も様々ながら実に魅力的な曲だらけだ。特にフォーレのレクイエムを彷彿とさせる “Lux Aterna” は、アメリカのみならず世界中で演奏されている。彼の曲の特徴としては次の三つが挙げられるだろうか。一つは古い時代の音楽の利用。馴染みのある音楽を取り入れることで聞き手は安心感を憶える。今回の “Ubi Caritas et Amor” でもグレゴリオ聖歌が実に効果的に使われている。二つ目は言葉の抑揚を生かした音楽。現代音楽には言葉を記号としか捉えないものも多くあるが、Lauridsenの旋律はどれも、歌心をくすぐられる。そして、
ひたすら二度の和音を鳴らす Lauridsen-sound(勝手に命名)。一見濁った響きになりそうだが不思議や不思議。とても澄んだ、魅力的な響きとなるのである…かどうかは歌い手次第でもあるのだが。
 ぜひこの「古くて新しい響き」を堪能し、虜になって頂きたいと願う。

【成】


Five Negro Spirituals      / Michael Tippett (1905-1998)

 アメリカ音楽というからには黒人霊歌(ニグロ・スピリチュアル)の事を抜きにしては決して語れません。
それは今更あらためて言うまでも無いのでしょうが、アメリカという国の成り立ちに大きくかかわってきた黒人と白人との歴史背景はもちろん、南北戦争・奴隷解放後、広く普及が始まった19世紀末〜20世紀初頭には、ジャズの誕生・発展にも大きく影響した点からも、音楽にとどまらず政治・経済にも影響を及ぼし、いまなお、そのスピリチュアルはアメリカのみならず世界中で愛され続ける普遍性を持っているのです。その大きな特徴である「スピリチュアル=魂の叫び」はどのような経緯で生まれたのでしょうか?
新大陸アメリカの開拓は黒人奴隷の暗く悲惨な歴史と重なり合います。1619年、20名の黒人がアフリカからオランダ船によって運ばれヴァージニアの農園に売られて以来、多くの黒人たちが運ばれ、奴隷とされました。鎖につながれ過酷な労働の中、故郷・家族からも断絶させられた人々が「生きる希望」を失ったであろう事は誰しも容易に想像できるでしょう。

そうした中、彼らは聖書の教えにふれたのでした。いくらかの良心の呵責を感じた一部の白人たちによってもたらされたと言われていますが、宗教による「完全に精神的な幸福」という希望を彼らは見出したのです。牧師らの語る聖句・聖書中の物語にメロディーをつけ、歌うことによって彼らは信仰を深めてゆきました。敬虔な、そして時には熱狂的な感激の中で彼らは現世の苦悩から逃れていったのです。

黒人たちの先天的に備えていた歌心と白人たちの音楽が融合して誕生した黒人霊歌は、18世紀終わり頃から次第に盛んとなり、白人たちにも注目されはじめた奴隷解放後の1871年、黒人教育の最高機関であったフィスク大学の資金集めの一手段として、同校のジュビリー・シンガーズが全米各地、及びヨーロッパでスピリチュアル・コンサートを行って以降、世界中へと広まってゆきました。さらには20世紀の偉大なシンガーと讃えられたマリアン・アンダースン(1897-1993、ソプラノからバスパートまで歌ったとされる驚異のコントラルト)によって、人々は霊歌の持つ、物悲しげで素朴だが豊かな感情に裏付けられた豊かなハーモニーを堪能する事ができました。余談ですが、彼女は人種平等を求める闘いの世界的なシンボルとなり、1961年ケネディ大統領就任式でも歌っています。

本日はティペットの編による5曲を演奏します。その中で「Go down Moses」では、エジプトに連れて行かれ奴隷として重労働を強制されていたユダヤ民族の人々を、神の名によって解放したモーゼの偉業を賛美しています。「Deep river」はかなり古くから知られた曲ですが、

  深い河、私の家はヨルダン河の彼方にある、深い河、おお主よ、

私は河を越えてあの懐かしい土地へ帰りたい. . . と歌われる名曲です。いずれも自由と幸福を求める悲痛な心情に溢れています。技術もさることながら生半可な感情表現では原曲の良さを殺してしまいかねないと不安です。感情表現がうまくゆかず困難なのは、会社・家庭での実生活もそうだなぁと感じてしまうのは小生だけでしょうか?

【メタボ2号】


A Little Jazz Mass      / Bob Chilcott (1955-)

え?ジャズでミサやるの?ミサってばラテン語でしょ?
あらやだ。ジャズのボーカルっていえば、やっぱりこてこてのアメリカ英語でやんなきゃ、
感じがでないわよ。
それになに?
ちゃんと細かいところまでできあがった楽譜があるの?あなたたち、これのとおり、きっちり歌うわけ?ふううん、自分でフェイクもしないで?即興もなし?そんなのジャズじゃないわねえ。
ま、合唱だもんね。50人もいるの?じゃ、勝手にフェイクするってわけにいかないか・・・・。

それにしても、この楽譜・・・・・ふむふむ、なかなか楽しそうじゃない。キリエはグルーブ
してるし、あらあら、グローリアはうまくスイングできれば、かっこいいわよ。アニュスデイは、まあっ!これ、ブルースじゃない?
これ、ジャズトリオとやんの?へえぇ。お、このメンバー?!ばりばり活躍中のすんごい
ミュジシャンさんたちじゃないの!ふんふん、ドラムスとベースはできあがった楽譜がなくて、好きにやってよし、と。ほう、ピアノも、楽譜にこだわらない。へえ。
・・・・・これは、もしかしたら、面白いことになるかも。こうなったら、歌うほうも、聴くほうも、皆じっとしてないで、大いに楽しんでもらえたら素敵だわね!!

【いかわ みきこ】


Agnus Dei       / Samuel Barber (1910-1981)

Missa Brevis       / Leonard Bernstein (1918-1990)

Alleluia       / Randall Thompson (1899-1984)

私たちガーデンプレイスクワイヤは、スポンサーの意向もあって、年に3~4回の演奏会本番をこなさなければならない、非常に忙しい合唱団であります。ひとつの演奏会が終わると、その翌週から約3ヵ月後の次の本番に向けて練習が始まり、同時にそのまた次の演奏会のための曲選びをスタートさせなければなりません。そんなことを毎年繰り返しつつ、GPCは明後日11歳の誕生日を迎えます。その間積み重ねた定期演奏会の数が30回!!

ルネサンスからバロック、ロマン派、近現代、民族系、ジャズ、ポップスなど、レパートリーを限定せず、そのとき歌いたい曲を手当たり次第演奏してきたGPCの11年間は、ある意味、曲選びの歴史だったとも言えるかもしれません。

演奏会の曲目が決定されるシーンは、たいてい練習後の飲み会の場で展開されます。どの合唱団にも一人は必ず存在する「合唱オタク」が、それはそれは膨大な候補曲リストを用意してくれます。それをもとに、根回しや綱引き、ウラ技、寝技など、自分のわがままを公に認めさせるため、戦略を練り、戦術を駆使し、多数派工作に暗躍し、最後は指揮者のセンセイの詔勅を賜れば見事決定。

ま、実際にはその場の成り行き、勢い、声の大きさがモノをいう世界ではありますが。
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さて、今回のプログラムをアメリカもので構成することになった「成り行き」とは。
元々今回の演奏会は、GPCがお付き合いしている某指揮者のご紹介で、アメリカのとあるオーケストラの合唱指揮者の方を客演でお呼びする話が進んでおり、それを前提として曲選びが始まったわけです。
結局は、紆余曲折を経て客演指揮者招聘の話は流れてしまいましたが、従来GPCがあまり取り組んでいなかったアメリカの合唱音楽にスポットを当てるきっかけとはなったのです。
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第二部のスタートは、サミュエル・バーバーのアニュス・デイ(Op.11)。有名な「弦楽のためのアダージョ」にラテン語の典礼文を載せて編曲されたものです。GPCでは第8回定期演奏会で、本日と同じここカザルスホールにて、モーツァルトの大ミサ(アニュス・デイが欠けた未完のミサ)の後のアンコール曲として演奏しております。
あの時は、興奮に流されて熱くなり過ぎ、かつ息があがってしまったという反省が残りました。あれから8年後のリベンジです。今回は休憩の直後ですので、スタミナは十分。曲本来のすすり泣くような旋律を、バテルことなく、怜悧な静寂の中で表現できることと思います。

作曲家としてのレナード・バーンスタインと言えば、とりあえず「ウエスト・サイド物語」を思い出しますが、20世紀の合唱音楽において重要とされる作品もいくつか残しています。本日演奏する「ミサ・ブレヴィス」は、元々別に書かれた合唱曲にミサの典礼文を載せ代えて作曲されたものです。オリジナルの「ザ・ラーク」の方が面白い仕掛けがあるのですが、今回はかねてより団内に支持者が多かった「ミサ」の方を選択しました。決して、「ラーク」の歌詞が一部フランス語を含んでいるのでやっかいだ、ということではありません。二曲比べて聴いてみると興味深い。

しめくくりは、ランドル・トンプソンの「アレルヤ」を演奏いたします。日本のアマチュア合唱界ではメジャーな曲で、一時期コンクールなどで流行りまくった曲です。親しみやすい旋律で演奏効果も高く、とりわけ、歌詞が”アレルヤ”のみ!!という点が好まれる理由だと思われます。演奏会のフィナーレを飾る歌として、気持ちよく歌い上げたいと思います。ちなみに、「現代ピアノ教本」のトンプソンとは別人です。
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アメリカの音楽というと、ジャズ、ロック、ポップス、もしくはミュージカルなど、ヨーロッパのいわゆるクラシック音楽とは世界観が異なるし、「合唱曲ってどんなん?」というイメージもありますが、我々GPCのような雑食性でがっついた合唱団にしてみれば、聴いて楽しく、歌って楽しい曲であればジャンルやカテゴリーなど何でも良いわけで、そういうコンセプトにもとづき、今回のプログラムに取り組んできました。

で、実際ツボにはまる曲が多く、初めて耳にする方でも十分親しめるプログラムだと思いますので、どうぞお楽しみください。
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で、これが終わると次の、そのまた次の演奏会に向け、曲選びのネタ探しに旅立つわけです。 ああ、きりがない。。。

【越沢 滋】